本づくりとひとりについて(千原こはぎ)

 こんばんは、千原こはぎです。水たまりとシトロン、12巡目のテーマは「短歌の冊子について」です。曜さんは歌集、さちさんは結社誌について書いてくれたので、わたしは短歌のアンソロジーについて書こうと思います。


 子どもの頃から本や冊子を作ることが好きだったわたしは、交換日記みたいな冊子から、イラストや漫画の本、学校の図書館広報や、会員制創作サークルの会誌など、さまざまな冊子を100冊以上作り、ついには印刷出版系の会社に就職してデザイナーとして市販される本や冊子なども作るようになりました。(……今こうして思い出しつつ書き出してみると、あまり自覚はしていなかったのですが、なんかちょっと病的なくらい本を作るのが好きなんだなと改めて気づいて自分で自分がすこしこわい)

 そんな「本作りたい病」を患っているおかげで、Twitterで短歌を発表するようになってからは短歌の冊子をたくさん作らせてもらってきました。(それらのほとんどは以下のサイトから読んでいただけるようになっていますので、興味のあるかたはよろしければご覧になってくださいね。 http://kohagiuta.com/design.html

 どの企画も楽しくて、わくわくしながら作らせてもらったものですが、特に記憶に残っているのが、上記のサイトには掲載されていない「おいしい短歌」という企画です。


 「おいしい短歌」は2016年の秋の企画で、122名の皆さんに<おいしい短歌>をテーマに作品をお寄せいただき一冊にまとめたものです。

  • 大カテゴリ「和食/洋食/中華/その他(多国籍料理)/デザート・おやつ/ドリンク・お酒」から好きなジャンルを選択
  • 連絡用掲示板「メイティ」にて自分の好きなメニューを申告していただく
  • 全員のメニューがかぶらないように調整
  • 6首の連作を制作いただく → ご寄稿 → 冊子制作

……という形で進めたのですが、何しろご参加いただいた人数が多かったことで、メニューの調整などのやり取りがてんやわんやだったのと、告知や連絡などでメイティの一斉メンション機能を使っていたのですが、数が多すぎるためTwitter側にスパム判定されてしまい、相手の通知欄に表示されないトラブルなどもこのとき初めて経験したりして、大変だった覚えがあります。

 冊子はもくじをレストランのメニュー風にして、カテゴリごとにお料理(連作)を並べて掲載しました。フランス料理からうどんや焼肉、スイーツからお酒まで、ありとあらゆる「食」の短歌が並んでいて、読んでいるとお腹の空く、とてもおいしそうな一冊となりました。おかげさまでたくさんのかたに手に取っていただけたのですが、いろんなところで「お腹が空いた」というお声を聞くたびに、心のなかでちいさくガッツポーズをしたものです。


 水がテーマのアンソロジー「みずつき」は10回、獅子座さんを集めた「獅子座同盟」が9回、ペアで返歌を作る「Re:短歌」は3回……など、楽しい企画は何度やっても楽しいものですが、「おいしい短歌」も、いつか第二弾が作れたらいいのになぁと、わたしのなかでは折りに触れ思い出す企画となっています。

 今回、短歌のアンソロジーについて、どの企画のことを書こうかなと考えたとき、毎年恒例で来年で10周年を迎える「みずつき」より、たった一回きりの企画だった「おいしい短歌」がどうしてこんなに印象深く思い出されるのだろうと不思議だったのですが、もしかしたらそれは、先述の「大変さ」ゆえかもしれません。


 この11年ほど、上記のようなアンソロジー企画や短歌なzine「うたつかい」など、さまざまな本や冊子を作らせてもらってきましたが、わたし自身は結社や同人などには所属せず、ずっとひとりで短歌を続けてきました。

 アンソロジー企画は、募集期間や製作期間、完成後のしばらくは、わーっと盛り上がる感じがあってとても楽しいものなのですが、やはり基本的には一回きりのものなので、そこに継続した人間関係はありません。

 そのことがときどき無性にさみしくなることはあって、そのたびに「そろそろ結社に入ろうかな…」「誰かに同人に誘ってもらえないかな」「誰かを誘って同人を作ろうか」と考えたりするのですが、わたしはどうやら人と深く関わることがへたくそのようなので、おそらく結社や同人に入ってもうまくやっていけないのではないかと最近やっと思うようになりました。

 そんな、いつも心のどこかに抱えているさみしさみたいなものが、「おいしい短歌」の制作時、たくさんのかたがたとメニューをてんやわんやで決めていたこと、告知が通知に出ないと皆さんが協力して次々と案内ツイートをして助けてくださったこと、出来上がった本を読んで「お腹が空いた!」と嬉しい感想をあちこちで聞かせていただけたことなど、大変だったり嬉しかったりした思い出を、ぜんぶまとめてしあわせなものとして、より印象深く記憶に刻みつけたのかもしれません。


 人と深く関わることが苦手なわたしが、こうして11年間、結社や同人に所属することもないまま、いろいろな冊子を作り続けることができているのは、その都度Twitter上での呼びかけに賛同し、企画にご参加くださるたくさんの短歌の仲間のおかげだと思っています。作品をお寄せいただけるからこそ、本を作ることができますし、出来上がった本に対していろいろな感想をいただけること、そしてまた次の企画にもご参加いただけることが、わたしにとっては至上の喜びなのかもしれません。

 昨年の3月に創刊した隔月発行の「うたそら」もあわせて、これからもいろいろな短歌の本を作っていきたいと思っていますので、よろしければまた短歌を通じて一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。


 ひとまず次は、次回でちょうど一周年を迎える2月28日〆切の「うたそら第7号」! たくさんの皆さんのご参加を心よりお待ちしております。


ひとりきりうたう鼻歌 いつからか歌、歌、歌がかさなって、春

水たまりとシトロン

御糸さち、西村曜、千原こはぎによる短歌な公開交換日記

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