船(西村曜)

 だいぶ間が空きましてすみません、水たまりとシトロン10周目「住」の西村の回です。ご無沙汰しております。

 テーマ「住」ということで、さいきんまた引越したわたしとしてはこれは引越か、もしくは新居について書くのが妥当だろうといろいろと案を練っていました。しかし案を練りに練るばかりで、なかなか文章にできない。書き進められない。さいごの更新からだいぶ経っていまこうしてやっと書き出しているわけですが、なぜこうも取り組むまでに時間がかかったかというと、それなりに重度のホームシックに陥っていたからです……。

 以前住んでいたのは実家もある滋賀。いまは縁あって関東に引越しまして、なんにせよ滋賀がとおい。コロナ禍もあって帰るに帰れない。帰れないどころかいま住んでいる近所になにがあるのかの開拓もままならずステイホームするばかりで、どんどんホームシックは重くなっていきました。そんななかで引越や新居のことをあらためて考えられない……! まして書けない……! と、ここまで長い言い訳です。いや、でもほんとう、滋賀に帰りたい……。

 新居はまえの家に比べて広く、おそらく住みごこちもいいはずですが、こちらはホームシックの真っ最中。この家に馴染んでたまるかとばかりに引越の段ボールもまだ未開封のまま積んだなりにしています。生活にひつような物はかろうじて箱から出しましたが、それもぐちゃぐちゃと整頓せずに置いてあるしまつ。ホームシックは頑固です。まだまだこの家をすきになれそうにありません。

 ただひとつだけ、あたらしい家のなかで、あっちょっといいなとおもった場所があります。それはこちらへ来てから買った、陶芸家リサ・ラーソンの船のオブジェが置いてある一角です。出先でたまたま開かれていた北欧市でふんぱつして買った物で、ほかにも猫やらきつねやらがモチーフの物もあったのですが、海に面している街に住みはじめたのもあって船のモチーフを選びました。あたらしい船出、という意味合いも意識にはあったとおもいます。船はぽってりと丸く、愛らしいかたちをしています。この船のある一角だけはほかに物を置かず片付いており、ちょっといいなとおもえるところになっています。こうやって一区画ずつ「ちょっといいな」を増やしていって、長い時間をかけてでもこのあたらしい住まいと街に馴染んでいくほかありません。いやでもほんと滋賀帰りたい。帰れないけど。明日はなんとか、未開封の段ボール箱のひとつも開けてみようとおもいます。

なにもかも流されていく日々にありリサ・ラーソンの船はとどまる

水たまりとシトロン

御糸さち、西村曜、千原こはぎによる短歌な公開交換日記

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