そこにあるなら(西村曜)
こんばんは。西村曜です。水たまりとシトロン十二巡目のテーマは「短歌の冊子について」。歌集歌書、結社誌も広く含めたテーマとして設定しました。わたしの回で取り上げたいのは、杉﨑恒夫歌集『食卓の音楽 新装版』『パン屋のパンセ』(ともに六花書林)です。
これらの歌集は、滋賀の地元で買いました。そういえば滋賀ではどうやって歌集を買っていただろう……とふり返ると、もっぱら通販。たまに大阪まで出て、詩歌に特化した本屋さんの葉ね文庫さんで買う、というくらい。地元にもそれなりにおおきな本屋さんはありましたが、詩歌コーナーはちいさくて……。そこにほしい歌集が並んでいることは稀でした。
『食卓の音楽』『パン屋のパンセ』は、短歌の知り合いの方が読んでいてほしくなったのですが、もちろん地元のおおきな本屋さんにはなく。いつか葉ね文庫さんで買うかなあ、とずっと意識の隅に置いてありました。それがある日、地元の商店街のギャラリーにふらっと入ってみたところ、ギャラリーの奥になんとちいさな本屋さんがあり、なんとなんとそこに二冊とも並んでいたのです。そこに歌集はこの二冊きりで、詩歌関係ではほかに谷川俊太郎やまどみちおの詩集があるきりでした。歌集を見つけたときのわたしの驚きとよろこびといったら! 以来折にふれてたいせつに読む歌集になりました。
『食卓の音楽 新装版』は杉﨑さんの第一歌集、『パン屋のパンセ』は第二歌集です。
聖歌隊胸の高さにひらきたる白き楽譜の百羽のかもめ/杉﨑恒夫『食卓の音楽 新装版』
日常の物事から詩を取り出す鋭い目線と、明るく清澄な歌いぶりが特徴です。第一、第二歌集ともにすきですが、やわらかな口語表現がより印象的に現れる第二歌集『パン屋のパンセ』がさいきんの気分です。
いくつかの死に会ってきたいまだってシュークリームの皮が好きなの/杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』
思うさま花火よひらけ木星まで空の広さを買い占めてある/同
「思うさま〜」の歌は、わたしは買い物ずきなので買い物の歌にはつい目がいくのですが、いままで読んできた買い物短歌のなかでもとりわけてすばらしいとおもっています。たとえばちょっとおおきな買い物をするとき、呪文のように「思うさま花火よひらけ!」と(こころのなかで)唱えてみたくなります。このすてきな二冊の歌集が地元のおもいがけない場所で買えたことは、本を開くたびにわたしのこころをあたためてくれます。
そこにあるならありますね売人の言い値で買った星のひとつぶ
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